カノン




「何してるの?」

「お前こそ、そんな格好で繁華街うろついてんじゃねぇよ!」

制服姿を指摘され、バツが悪くなったのは自分が家を飛び出してきたばかりだからだ。

「帰れよ、補導されんぞ」

首を振ると棗君は怪訝な顔で「何だよ」と面倒くさそうに訊ねた。

「いろいろ、あってね・・・家出?しちゃった」

「何で疑問形だよ。お前、無計画だろ」

図星なので、何も言い返せず黙り込むと大きな溜息が聞こえた。

「意外と頭悪いな、お前」

意外と、と頭につけられたから普段は頭悪そうに見えてはなかったのか、とどうでもいいことを考えていた。

今の無計画さは頭が悪いとしか言いようがないので、これも言い返せない。


「普通、通学鞄1つで家出するかよ。早く帰れ。それかちゃんと家出の準備してから家出して来い」

シッシッ、と犬でも追い払うかのように掌を払われた。

「家には戻れないよ・・・。親に出て行けって言われたんだから」

「・・・親から?」

棗は眉間に皺を寄せた。面倒だと思ったのか、困り顔なのか私には判断がつかない。


「とりあえず、今日は咲綺の家にに泊めてもらえば」

「・・・うん」

私は近くの植木周りを囲む煉瓦の上に腰を下ろし、再び咲綺ちゃんの名前を携帯に呼び出した。

コールしながら、再び割引券の配布を再開した棗君を視線で追う。

棗君が居酒屋でバイトしてるなんて驚いた。

軽音部にいる棗君はバイトしていることを微塵も悟らせなかった。

咲綺ちゃんも馨君も話に出したことはないけど、知ってたのかな?

思えば、1番に部室に来て、最後に帰って行く棗君の部室以外での行動を私は何も知らない。


しつこくコールしたが、咲綺ちゃんにはやっぱり繋がらず、溜息を吐いた。

もう私には連絡する女子の名前が思い当たらない。