カノン




「ふざけないでっ!!コンクールはピアニストになるために大事なものなのよ!?実績は必要だし、プロが見に来ていることもあるの!!それを・・・、それをっ!!」

「ごめんなさ・・・」

「すぐに辞めなさい!!」

「え・・・?」

「軽音部なんてすぐに辞めなさい!!ピアニストは二番煎じでなれるようなものじゃないの!!ピアニストはあなたの小さい頃からの夢だったでしょう!?」


眉を釣り上げ、深くなった眉間の皺。

テーブルを右手で思い切り叩いて、脅すように言った。

「軽音部は辞めたくない」

「な、何言ってるの・・・。ピアニストになれなくてもいいの!?」

ゆっくりと。でも、大きく頷いて「いい」と言うと、母は異形物でも見るかのような目をしながら固まった。


「ピアニストにはなれなくていいの。私はピアニストになる夢よりも、大切な物を見つけてしまったから」


咲綺ちゃんや棗君や馨君の顔が、4人で演奏した音楽が記憶に焼き付いている。

「馬鹿なことを言わないで」

「本気だよ」

「苦しいかもしれないけど、今がとても大事な時期なの。高校生活なんてたった、3年よ。そんな場所で作った物が将来、何の役に立つって言うの!」

「将来の役に立つとか立たないとか、そんなの関係ない。今、出会えた人達のことをただの通過点にはしたくないよ」


隠してきた思いを母に全部伝えた。

最初からわかってもらえるなんて思っていない。

母が今まで私に費やしてくれた物は数えきれない程多くて、私がどれだけかかっても返しきれないのかもしれない。


それでも、時間をかけてゆっくりと、分かり合っていければいい。

そうやって思っていた。



「出て行きなさい・・・」


「え・・・?」


思わず耳を疑った。

低い声で呟いたが、それは間違いようも無く私の耳に届いた。

それでも、聞き返したのは信じたくなかったからだ。


「出て行きなさいッ!!あなたなんかうちの子供じゃないわ!!」


机を両手で叩き、立ち上がると母はリビングのドアをけたたましい音をたたせながら閉めて出て行った。


「そんな・・・、お母さっ・・・」


いつかは分かり合えると、思っていた。


私が思い描いていたことは、都合が良すぎたんだろうか。

親子だから、と甘えていたんだろうか。


脱輪した途端、存在価値が無いかのように否定され、簡単に放り出されたことが悲しくてたまらない。


私は嗚咽を漏らしながら、鞄を持って静かに家を出た。