これから、私は今まで後回しにしてきたことを話さなくてはならない。
そう思うと、玄関のドアが酷く重いように感じたし、自分の足に鉛でも入っているんじゃないかと思う程、足取りが重かった。
何度も躊躇うのに、気持ちの半分には開放的な感覚があったのも確かだった。
今まで騙し続けてきたことを、今日で終わらせることができる。
最初に切り出す言葉を心の中で反復し、リビングのドアを開けた。
「お母さん」
晩御飯の支度をしていた母の背中に呼びかける。
「ちょっと、話があるの」
酷く緊張した声色だったけど、何とか最初の言葉を切り出すことができた。
母は訝しみながらも、エプロンで手を拭きながらダイニングテーブルに座った。
母が座った向かい側に私も座る。
「神妙な顔付きね?何かあったの?」
「あのね、お母さ・・・」
「ちょっと!!何なの、この腕は!?」
「痛っ」
突然目を怒らせた母は私の腕を乱暴に引っ張って、テーブルの上に腕の内側を晒した。
腕にはバレーボールをやった内出血の痕跡が隠しようも無く、現れていた。
「ふたば!あなた、何をしたの!?」
「体育で、バレーボールをやった」
「どうしてっ・・・!!学校にきちんと言っているはずなのにっ・・・!」
「そのことだけど、もう見学じゃなくていいって言ったよ」
腕をテーブルの下に引っ込めて、密かに反対の手で擦った。
「どうして、そんなこと言ったの?」
母は荒げた声を落ち着かせて、静かに訊ねた。
突然落ちたトーンとは裏腹に、母の怒りは増しているように見えた。
「ずっと、お母さんに嘘をついていました」
母の厳しい視線を受けたが、私は目を逸らさなかった。
「私は今年の春に軽音部に入って、ギターを弾いているの」
「ギター、ですって・・・?」
「放課後も夏休み中も、勉強してるって言ってたけど、本当はギターの練習をしてたの」
「今年の春って、あのコンクールの時も・・・?」
「うん・・・」
頷いて、顔を上げようとした瞬間に母の平手が私の頬を打った。
反動で私の顔は右を向き、そのままの状態で床の模様をぼんやりと眺めていた。
遅れてやってきた頬の痺れと熱を実感し、左手を添えながら母に向き直ると、母の目には涙が溜まっていた。

