「じゃあ、あたしまた作っていいかな。間に合うかわかんないけど」

「うん、いんじゃない。俺はできそうなコピー曲探しておくから」

「ねぇ、棗も作らない?曲」

何の前触れも無く棗君に話が振られ、地雷だ!っと瞬時に身構えた。

「何で」

私の早とちりを他所に、棗君は割と平然に受け答えをする。


作曲のことは私と棗君だけの秘密だと勝手に思い込んでいた自分が突然恥ずかしくなって、傷ついた気持ちに気付かないふりをする。

「だって、元々あたしに作曲のベースを教えてくれたの棗じゃん。それって棗も作曲できるってことでしょ?」

あ、棗君が曲を既に作っていたことは知らないんだ。

それを聞いて少し安心したような、嬉しいような気持ちになった。


棗君が曲を作っていたことは「誰にも言うな」と釘を刺されていたから不用意に発言ができず、棗君の様子を窺っていた。

でも、ここで咲綺ちゃんが作曲の話をしてくれたのはチャンスだと思った。

咲綺ちゃんの言葉が棗君を突き動かして、また曲作りを再開してくれればいいな、と期待が募り、止めることもしなかった。


「知識があってもいいか、と思ったから勉強しただけで作る気はしねぇよ。俺の教えたことなんてそこらの本と変わらない」

「そう?あたし的にはためになったけど」

咲綺ちゃんはそれで引き下がったけど、私はやっぱり釈然としなかった。

咲綺ちゃんと馨君はどんな雰囲気の曲でいくか、ということを話し始めていたが、私の耳にはすり抜けていくだけ。

棗君を見ると、いつもの無表情でベースのチューニングをしていたので、もうそれ以上何かを訊くことはできなかった。



多目的室での軽音部の初活動は、音楽準備室の時より遥かに充実したものだった。

特に馨君はちゃんと楽器を触って音を鳴らせるようになったのだから人一倍充実感を味わったに違いない。

狭い音楽準備室よりは伸び伸びと演奏ができて、咲綺ちゃんは舞台パフォーマンスの練習もやっていこうかな、と楽しげだった。