夏休み明け1日目は始業式をやってホームルームをやっておしまいの軽い1日。
肌を焼いたクラスメイト達は夏の思い出を語るのに夢中で、ホームルームが終わっても帰ろうともせずに教室に居残っている。
例年通り、夏休み中に肌を焼くようなことはなかったけど、去年とは明らかに違う、充実した夏休みを送ることができた。
こんなに夏休みが楽しくて、短いものなんだって初めて知った。
「行くよ、ふたば」
咲綺ちゃんに急かされて教室を出ると、音楽準備室とは反対方向を歩き出す。
「どこ行くの?」
「軽音部」
良くわからないけど、ついて来てって言われたから首を傾げながらも咲綺ちゃんの後を追った。
階段を下りて、1階の奥へと進んでいく。
「今日からここが新しい部室になりましたー」
咲綺ちゃんが「多目的室」とドアの上に札がぶら下がった部屋の前で立ち止まり、両手を広げた。
引き戸を開けると、数組の机と椅子が乱雑に隅においやられているが、間取りは普通の教室と同じ。
窓のついた壁際には音楽準備室のほとんどを占めていた黒のソファがあり、変わらず棗君がそこに腰を下ろしていた。
ソファはただ移動してきたんだろうけど、音楽準備室になかった物がロッカーの前で存在感を放っていた。
「ドラムセット買えたんだ!?」
馨君が赤色のドラムセットの後ろで音を鳴らしていて、私がそれに気づくと満足そうな顔で「うん」と笑顔を向けた。
「俺達が外でライブまでやっているのを知って、そこまで本気だったならって水野先生が校長に頼んでくれたんだ」
「水野先生が、何で?」
水野先生は音楽の先生であり、吹奏楽部の顧問をしている女性。
私は水野先生に受け持ってもらったことは無いが、吹奏楽部では厳しい指導をしているところを良く見かける。
「何でって、軽音部の顧問だから?」
「え!?そうだったの!?」
「音楽準備室に辛うじて置いてもらってたのも、水野先生のおかげだからね」
「こっちが無理言ってお願いしたから指導とかはないけど、顧問くらい覚えとこうよ」
「すみません・・・」
微苦笑を浮かべ、肩を竦める。
「ドラムセット、文化祭には間に合って良かったよ。今日、早速文化祭のステージエントリーしてきたから」
「流石馨。抜かりないね」
「持ち時間が1組10分くらいみたいなんだよね。2曲は余裕でできると思う」
「はいはいはーいっ!プラチナは絶対入れて!」
咲綺ちゃんが右手をめいっぱい伸ばして強く主張した。
「それは入れようとしてた。で、提案なんだけど、そろそろレパートリーを増やしていかない?コピーでもオリジナルでも」