カノン



約束通り、連れてこられたのは音楽室。

音楽室には既に私達より1時間分授業がなかった女子達が数人いて、トランペットやオーボエのパート練習をしていた。


「こっちだよ」

トランペットを吹く女子の前を横切って、音楽室の奥にある錆びかけた金色のドアノブが付いたドアの前に立つ。


その瞬間、音楽室にいる生徒全員が振り向く程の怒鳴り声が中から聞こえてきた。


「やる気がねぇならやめろ!てめぇは強制退部だ、出てけっ!」


咲綺ちゃんを見上げると、「やっちゃったかー」と顔を手で覆った。


「二度と来ねぇよ、クソ野郎ッ!」

違う声はドア側に割と近い方から聞こえ、同じく怒鳴り声が吐かれると共に勢い良く扉が開け放たれた。

「べぶっ!!」


「ふ、ふたば!」

自分の口から発せられた不可思議な言葉の意味を考える間もなく、私は開いたドアによって左肩を強打し、反動で倒れこんだ。


「ふたばっ、平気!?」

駆け寄ってきた咲綺は私の両肩に手を添えてゆっくりと立ち上がらせてくれた。

「だ、大丈夫」

脳が状況を整理できず、混乱していたが、左肩の痛みだけはしっかりと感じた。


「待てっ、カズ!」

音楽準備室から出てきたのは腰パンのせいで裾を引きずり、パンツの可愛らしい柄も丸見えの男子。

その背中に向かって咲綺ちゃんは低くも響く声で怒鳴った。


「ふたばに謝ってよ。あんたが開けたドアにぶつかったんだよ」

「そこに立ってるから悪いんだろ!知らねぇよ!」

振り返った男子は細い眉の間に皺を寄せて睨み付けてきた。

眉と同じ色に染めた色素の薄い髪は完全な校則違反だ。


「あったまきた!あんた、そんなやな奴だったわけ!?」

「こんな奴だよ。はは、悪かったなー」

小馬鹿にしたように、笑うと咲綺ちゃんは握りしめた拳を胸に構えてパンツ丸見せ男子に飛び掛かって行った。

「危ねっ!」

「避けるなっ!」

「避けるだろ、普通!」

パンツ丸見せは咲綺ちゃんの拳を避け続けるが、それにますます咲綺ちゃんが怒りだす。