咲綺ちゃんが曲に乗せた強い想いを感じ取るかのような観客の反応が伝わってくる。
私達の事なんて観客の誰もが知らない。誰だよ、こいつらって思ってたはず。
だけど、みんな視線も逸らさずに舞台だけを見、飛び跳ねている一角もある。
咲綺ちゃんが呼べば、それは波のように伝わって他の観客も飛び跳ねる。
咲綺ちゃんが1フレーズ終えるたびにライブハウスが一体化していくように感じた。
歌の前半が終わる頃には咲綺ちゃんはライブハウスを支配してしまった。
そうなれば、もうこっちのものだと言わんばかりに咲綺ちゃんが舞台を駆け出し、飛び跳ねる。
後ろを振り返って、もっと来い、と私達を煽ったり、私と向かい合って唄ってみたり、棗君に寄り添ってみたり、自由に動き回る。
咲綺ちゃんに煽られた馨君は間奏を食い気味にドラムを打ち鳴らし、棗君がそれに続く。
パフォーマンスはできない私は今までやってきたことを正確に、忠実にコードを弾き、咲綺ちゃんの歌が入るとまだ慣れないカッティングに集中する。
歌は2回目のサビに入って最高潮。
馨君は咲綺ちゃんが唄っている時は引き立たせる為に控えめにドラムを叩くが、間奏に入った途端激しくドラムを叩いてスティックを回す。
棗君は激しく自分を主張するようなことはしないが、安定した深みのある低音を鳴らし続ける。
首筋を伝う汗が光って落ちていくが、拭うことすら忘れてしまったように没頭して、あの細長い指で4本の銀色の弦を爪弾く。
4人がまとまり、見ている全員がまとまるこの一体感が気持ちいい。
みんながもっと音楽を楽しんでほしい。
こんなに自由に自分を表現できる音楽。
こんな私でも、自分を好きになれるかも、って思える。
もっと、もっと、音楽を感じて。音色と一体になって。
私は奏でられるリズムに乗せて、観客に訴えた。
何でか目頭が熱くなってくる。
自分自身、興奮しているのがわかる。
この音楽が永遠に続けばいいのに、と。

