カノン




棗君に対する気持ちが恋なんだって自覚したら、急に意識してしまって自然と棗君から距離をとっていた。

近くにいたら心臓が暴れまわって呼吸の仕方も忘れちゃうくらい緊張するってのもあるけど、これ以上好きになっちゃいけないっていうセーブもしているつもり。

息が苦しくなるって、私、このまま棗君と一緒にいたら命の危機を感じちゃうよ。

「違ぇ。カッティングはもっと勢いよく右手振れ。弱い。左手に気、とられんな」

約束通りカッティングを教えてもらったんだけど、棗君が手本で出したモッキュモッキュって感じの歯切れいい音がなかなか出せなかった。

左手でミュートした状態でピッキング、つまり右手は普通に弾いてる時と変わらない。

カッティングだけひたすらやっていても思ったような音が出ないんだけど、カッティングばかりの曲なんてないから曲の中にカッティングを混ぜてやらなきゃならない。

その為には素早く左手を浮かせてミュートしたり弦を押さえたりってことをしなくちゃならない。

同じコードなのに左手を浮かせたり抑えたりしてるのに気を取られると右手が疎かになって棗君に怒られる。


「余計な音とか出なくなったけど、お前はどの曲でも勢いが足りねぇ。手首が固てぇ。指に力入れんな。でも強く弾け」

相変わらずダメ出しんばかりされるけど、前みたいに半泣きになることはなくなった。

慣れてきたってのもあるし、棗君の言う通りにやればちゃんとできるようになるってわかったから「はい!」って体育会系のノリで返事する。

「また力入ってる。ここ。ほら力抜け」

腕を掴まれて左右に振られたけど、手首が固定されいてるせいで腕と一緒に振られている。

「何で力抜かねぇ!喧嘩売ってんのか!」

ぬ、抜けないよ!

棗君のちょっとひんやりする手に腕が包まれてるんだもん。

不審な目で見られたけど、大きく深呼吸をして手首をブラブラさせて力入ってませんよ、ってアピール。

そしたら棗君は「そのまま」って言って手を放した。

もう。

本当に心臓に悪いよ、この環境。