軽音部の夏休みの活動は毎日午後からだが、私は2時間くらい早く来て音楽準備室から自分のギターとカズ君のギターを持ち出し、屋上へ向かった。

「うわ、悪い!」

2つもギターを担ぐと重量感が増して、階段を1階分上がるだけでも息が上がる。

先に来ていたカズ君は申し訳なさそうにしながら慌ててギターを受け取った。

「それ佐伯さんのギター?」

頷き、お気に入りのギターを出して見せびらかすように正面を向け、カズ君に差し出した。

「レスポールかぁ。ほんとに買ったんだな」

「楽器屋さんで2時間も粘っちゃった。試奏したり棗君にアドバイス貰って、やっとこれだって思ったギターなんだよ」

「棗と一緒に行ったの?」

「そうだよ」

「マジで?棗が良く行ったな」

「棗君っていい人だよ。ちょっとキツイ言葉が多いけど、本当は仲間思いだし優しいよ。戻って来たらカズ君もきっと気づくんじゃないかなぁ」

「そうかぁ?俺は3ヶ月くらいあいつといたけど腹立つことばっかりだった。佐伯さん、棗のことすげぇ見てんだね」

「えっ!?み、見てないよ、そんなに・・・」

顔に一気に熱が集まってくる。言葉が詰まって不自然なのは自分でもわかる。

カズ君は目を丸め、すぐに理解したように「ふーん」と口元に笑みを浮かべた。

「そういうこと」

「な、何?」

「佐伯さん、棗のこと好きでしょ」

「え、えぇぇ!?そ、そんなことないよ!」

鼻先にずばり、と人差し指を突き付けられて私は慌てて両手を顔の前で激しく振る。

「顔真っ赤。図星でしょ。わかりやすいね、佐伯さん。そうかー、だから棗を庇うわけね。安心しなよ。俺、誰かに言ったりしないから」

「ち、違うよ・・・」

知らなかった棗君の部分を知ることができると嬉しくなって、もっと知りたくなる。

棗君の言動に過剰反応したり、少しでも長くいたいと望んでいる自分に気づいてはいた。


だけど、どうして自分がそう思うのか良くわかっていなかった。

カズ君が棗君のこと好きなんでしょ、てはっきり言うもんだから、そうなのかもって思って、そう思ったら突然意識してしまって、棗君の姿を思い浮かべるだけで胸が疼いてしまう。