カノン



「中学の時に近所に住んでた高校生がスターリンクのファンで良くエドのコピーしてたから」

「え!?ギター弾いたことあるの?」

「その高校生に教えてもらって中学の時ちょっとだけ」

「いいねっ、ギター!」

突然立ち上がった咲綺ちゃんは満面の笑みで回り込んで、私の両肩を掴んだ。


「も、もしかして・・・」

「ようこそ!軽音部へ!」


飛躍しすぎた言葉にすぐには反応できなかったが、手加減を知らない咲綺ちゃんが背中を「頼んだよ!」と叩いた瞬間に我に返った。


「無理無理無理無理!ほんとちょっとだから!コードも相当忘れてるし、コードチェンジもスムーズにできないし、2年も触ってないんだよ?」

「コードって言葉知ってるだけで十分!むしろ、知らなくてもロックが好きならそれでいい!」


「部活入っても練習とか毎日出れないから絶対無理なの!」

「いいよ、毎日じゃなくて!毎日来るのなんてあたしともう1人くらいだもん」

毎日来るのが部員の半分しかいないなんて、それってどうなの。

堂々と言っている咲綺ちゃんから危機感は感じられなかった。


「だって、私、指・・・」

「指?」

首を傾げながら私の指を見下ろす咲綺ちゃんの反応を見て、私は察した。

咲綺ちゃんは私の事情を知らない。


誰もが知っているように思っていた。


蘇ってきたの小学校の昼休みに恒例でやっていたドッチボール。


誘いを断り続けていたら、「ふたばちゃんはどうせ無理だよ」と誘われることもなくなり、そのまま浮いた存在になってしまったことだ。


せっかく友達になれそうな子がいるのに、また1人ぼっちになるのは嫌・・・。

「指がどうかした?」

不思議そうにしている咲綺ちゃんの顔を見て、出かけた言葉は飲み込んだ。



「ううん、なんでもない」

「じゃあ、音楽準備室でやってるから1回だけでも見に来て!全員揃うようにしておく!」

物凄い剣幕で捲し立てられ、明日軽音部の見学に行くことは強引に決定された。