冗談だったら許さねー。
いや、冗談であってほしいけど……。
「何だよこれ!意味わかんねぇ!!」
「何って、書いてある通りだよ。」
相澤のトーンはいたって真面目だし。
俺の方を振り返りもしない。
「それが意味わかんねぇっつってんの!」
相澤がゆっくりと振り返る。
こんなときなのに、振り返ったときに舞った黒髪に見とれてしまった。
何で黙ってるんだ……。
答えろよ……。
「ねぇ、今野……。」
「私たち、出会わなければ…………よかったね」
出会わなければ…………
よかった…………?
相澤は再び俺に背を向け、歩き出した。
「…………いざわ…………」
「…………あい……ざ……わ…………」
「…………相澤…………」
頬に涙が伝うのを感じた。
後ろから誰かが近づいてくるのが分かり、顔を伏せる。
「…………司くん」
前髪の隙間からのぞくと、そこに立っていたのは川瀬だった。
俺は地面に座り込んで声を殺して泣いた。
川瀬は俺の頭を優しく撫でた。
まるで試合の日の相澤みたいだ。
「…………司くん。
私が相澤さんのこと、忘れさせてあげる。」
相澤、俺と出会ったこと自体が後悔なら、この7か月、ずっと苦しくて苦しくてたまらなかったのか?
俺は相澤を苦しめていたのか?
俺はこの状況で、さしのべられた手を振り払えるほど強くなかった。