あたしは彼が胸から下げている、名札を見る。


「相川 総」

「何か思い出した?」

「、、、、いいえ。やっぱり、あなたのこと覚えてないです」

彼は大げさに落ち込む素振りをする。

「残念だな、結婚の約束までしたのに」

「、、、あの、どこまであなたのこと信じればいいのかわからないんですけど」


彼は笑い出す。

「そういうところは、昔と変わらないね。
結婚の約束は嘘だけど、君とは昔、医者と患者として接してる」

「あたし、病気か何かだったんですか?」

「、、、ここ」


彼はあたしの胸を指す。

「胸?」

「心の病気。まぁ、今回も無理のしすぎちゃったみたいだけどね」

「あたし、、、どんな人でした?さっきから、思い出そうとしても思い出せない」

彼は椅子に座り、あたしを見る。


「思い出せないってことは、思い出したくないってことかもしれない。
君は心因性の健忘だと思う。簡単に言うと、記憶喪失」


記憶喪失、、、。

「あ、あたし、別に怪我とかしてないですよ」

「検査した時は、脳にも異常はなかった。でも、君の記憶は抜けているのは確かだ。
現に君は、自分がわからないと言った。違う?」


彼が言うように、あたしは自分自身がわからない。

認めざる終えないのかもしれない、、、、。


「心因性の場合は、ふとしたことで思い出すことがある。だから、あまり気にしない方がいい」

気にするなと言われても、知りたくなるのが人間だ。