長い沈黙が続いた。



私の中で特に苦手が空気だった。



何か話題……。



「店長って、何て名前ですか?」



ダメ。唐突すぎる。



よく見ると、胸元に『七原 雅人』と書かれたバッチがついている。



「店長って、彼女いるんですか?」



初めて話した人といきなり、プライベートのことを話すのは失礼だ。



「ねぇ、店長ってイケメンですよねぇ。」



……誰だよ。



――どんなに考えても、答えは見つからなかった。



溜め息が出そうになった時、目に入ったのは店長が入れてくれたカフェラテだった。



まだ湯気が出ている。



また一口飲むと、ふと思った。



そっか。答えなんてないんだ。



さっきまで必死に考えていた自分が馬鹿みたいに思えた。



ふっと笑みを溢す。



――このカフェラテ、何か特別なものでも入れているのだろうか。



なんだか、これさえ飲めば今抱えている問題もすぐに解いてしまいそうな気分だ。





「七原さん。」



「はい?」





カウンターの中で、グラスを拭いていた店長が私を見る。





「このカフェラテに何か特別なものでも入れてるんですか?」



「うーん……。特にそういうスパイスみたいなものはないかな。
でも、大事なものを入れてるよ。」





店長の大事なもの?



それって何だろう……。



検討もつかない、って当たり前なんだけど。





「大切なお客さんへの愛だよ。」





それを聞いて、お店に入ってきた時のことを思い出した。