しかし、その暴れぶりからもヒグマの行動は慎重さを欠き始めていた。

味をしめた獲物が見つからず、昼間であるにもかかわらず大胆に人家に踏み込むなど、警戒心が薄れていた。

そして、行動域がだんだんと下流まで伸び、発見される危険性の高まりを認識できていなかった。

菅隊長は氷橋を防衛線とし、ここに撃ち手を配置し警戒に当てた。

そして夜、橋で警備に就いていた一人が、対岸の切り株の影に不審を感じた。

本数を数えると6株ある筈の切り株が明らかに1本多く、しかも微かに動いているものがある。

「人か、熊か!」

報告を受けた管隊長自ら大声で誰何するも、返答がない。

意を決し、隊長の命令のもと撃ち手が対岸や橋の上から銃を放った。

すると怪しい影は動き出し、闇に紛れて姿を消した。

やはり問題のヒグマだったのだと、仕留め損ない悔やむ声も上がったが、隊長は手応えを感じ取っていた。