そして11月20日、再びヒグマが現れた。

馬への被害を避けようと、富蔵は在所と隣村から2人のマタギを呼び、3人で待ち伏せる事にした。

マタギは、東北地方・北海道で古い方法を用いて集団で狩猟を行う者の集団。

一般には熊獲り猟師として知られるが獲物は熊だけではない。

古くは山立(やまだち)といった。

特に青森県と秋田県のマタギが有名である。

その歴史は平安時代にまで遡る。

30日、三度現れたヒグマに撃ちかけたが、仕留めるには至らなかった。

翌朝、富蔵の次男・亀次郎(かめじろう)を加えた4人で鬼鹿山方向へ続く足跡を追い血痕を確認したものの、地吹雪が酷くなり、それ以上の追撃を断念した。

マタギは地吹雪の中呟く。

「こりゃあ『穴持たず』だな…」