《恵斗、元気?》




そういう書き始めだった。



前略でも拝啓でもなくいきなり本文が始まっている事と呼び捨てだという事から、この佐川エミルという人物が恵斗と相当親しくしていた事が窺える。



《恵斗、元気?



あたしの名前見てどう思った?



覚えてた?


そんな訳ないよね。


恵斗はどうも思う訳ないし、あたしを覚えている訳ないよね。



わかってるつもりなんだけど、なんだか心底信じる事が出来なくてさ。



押しつけがましいよね。



ごめんなさい。



こんな事しちゃいけないのもわかってる。



だけど、恵斗の絵本見てたらガマン出来なくなっちゃって。



だから、これは、単なるファンレターと思ってくれていいから。



直接自宅に届いた事に驚いただろうけど、それでも、ただのファンレター。



あたしが何者か気になるだろうけど、あえてそこは内緒にします。



ちょっとでも気にしてくれたら嬉しいから。



嫌な女だと思ったかな?



思っただろうね。



こんな意味のわからない手紙を送り着けてくるなんてって。



だから、もうそろそろ終わりにします。



返事、くれたら嬉しいです。



恵斗がこんな手紙に返事なんて書かないのはわかってるけど、それでも待ってます。





                       佐川エミル》