請求書とダイレクトメールしか入らないポストに、今日は手紙らしきものが一緒に入っている。



恵斗は不思議に思った。



手紙をくれるような友達も親戚もいない。



手紙を裏返すと、名前らしき文字が書いてある。



《佐川エミル》。



誰だ?


外国人?



恵斗には全く記憶にない名前だった。



エレベーターに乗り込みながら、考えた。



佐川・・・エミル・・・?



佐川・・・佐川・・・



駄目だ。



全く思い出せない。でも、住所を知っているという事はこちらの存在は知っているという事になる。



もしかして、ファンではないだろうか。



出版社ではなく、直接送ってきたのだろうか。



いや、でも、どの本にも自宅の住所は載せていない。



うんうんと唸りながら、恵斗はエレベーターから降りた。




自室のズッシリとした扉を開け、多少散らかった部屋の中に入る。



恵斗は玄関先で手紙の封を開けた。薄桃色の便箋には桜が散っている。



今は桜の季節ではないが。