「良かったら客席でマリアのステージ見てきたら?勉強しないとね」



先程マリアを呼びに来た若い男が、ニコニコしながらそう言った。



良く見ると、整った顔をしている。



背はそんなに高くはないが、バランスの取れた体つきをしている。



ノーネクタイの首元から少しだけ鎖骨が覗いていた。



この男もステージに立てそうだが、そういう雰囲気はない。



店長か、ボーイのようなものなのだろうか。



「自己紹介しないとね。俺は寺内葵。一応ここのオーナー兼店長だけど、アオイでいいから。ちなみに、マリアの旦那」



柔らかい口調に、璃梨は安心した。



覚悟はしていたが、こういう店ではだいたい裏の人間がオーナーだと思っていた。



もちろん、アオイがそういう人間ではないという確証はない。



それにしても、マリアが既婚者だったとは思わなかった。



どう見ても人妻には見えない。



内縁の妻というやつなのだろうか。



「旦那さんて・・・あの・・・」



アオイは璃梨の心中を見透かしたように、自信満々な笑みを見せた。



八重歯があるようで、微笑んだ唇が八重歯の出っ張りによって少し浮きあがっている。



それがまたこの人の魅力に繋がっているようだ。



結婚していようがいまいが、アオイとマリアは間違いなくお似合いだ。