璃梨はリビングを出た。



玄関に続く廊下には、大きなトランクが置いてある。



中には璃梨の洋服や化粧品、生活用品がギッシリと詰まっていた。



璃梨はそのトランクの取っ手を握り、リビングを振り返った。



母親の顔を見る。父親の顔を見る。璃梨はニッコリと笑った。



両親の前で笑ったのは何年振りだろう。二人はきょとんとしている。



何が起こったのかわからない様子だった。



「お父さん、お母さん、今まで育ててくれてありがとう。あたしには夢があるの。だから、この家を出て行きます」



璃梨の野望。それはマリアが言っていた復讐であった。



璃梨が考えた両親に対する復讐とは、きちんと大学を出て、司法試験にも合格して、弁護士にならない事だった。



両親にというより母親に対する復讐になるが、父親に対する復讐はすでに果たしてある。



父親の浮気を母親にリークしたのは璃梨だった。



無関心に抵抗するには干渉だと考え、余計な事をしてやった。



結果的に母親も怒らせる事になったが、母親も別に父親を愛しているわけではないのだから構わないだろう。



現に離婚はしていないのだから。



別居すらしていない。



母親は明らかに父親の経済力に依存していた。