「名前は『escape』。小さな劇場。仕事は客前で踊る事」



璃梨は自分の就職先を、そんな風に説明した。



「え?璃梨ちゃん、あなた何を言ってるの?お母さんはあなたの就職先の事務所の事を言ってるのよ?冗談言わないで」



母親にとって、璃梨の発言はにわかには信じがたいものだったらしい。



「だから、そこがあたしの就職先。四年前から決まってるの」



母親は立ちくらみを起こしたのか、その場に膝から崩れ落ちた。



ここは、自宅のリビングだった。



璃梨にとって自宅は、何一ついい思い出などないただ雨風を凌げる箱に過ぎなかった。