打ち上げ花火とミルクティ

老婦人と別れると、そのまま一階に下りた。



手元の小さな機械には『一階レントゲン室前でお待ち下さい』と表示されている。



もちろん、レントゲン室の場所は把握していた。



広い病院だが、お年寄りが多いためか、案内表示が充実している。



廊下の床にはたくさんの矢印。矢印の上にはそれぞれの部屋の名前が書いてある。



その矢印を辿っていけば、目的の部屋に到着出来るようになっている。



恵斗は、慣れてはいたが念の為毎回矢印を辿る。



レントゲン室は青い矢印を辿ればいい。そういう訳で、廊下には下を向いて歩いている人間がたくさんいた。



ぶつからないのが不思議なほどである。
 



青い矢印を辿り、レントゲン室に辿り着いた恵斗は、ドアの前に設置されている安っぽいソファに腰を下ろした。



ピアスとネックレスを外す。



ブレスレットと指輪は外さなくてもいいと以前レントゲン技師に言われていたのでそのまま。背もたれにもたれ、脚を思い切り広げたまま投げ出す。



腕は頭の後ろで組んでいる。完全にリラックスした体勢だった。



「・・・打ち上げ花火かぁ・・・」



先程老婦人に言われた事を思い出していた。



恵斗はまた一つため息をついた。ため息をつくと幸せが逃げて行くというが、つかずにはいられなかった。



老婦人が言った事は正しい。



打ち上げ花火のように豪快に散るか、線香花火のようにひっそりと散るか。



男としては、豪快に散りたい。



このままでいいとは思っていない。



だけど、勇気がない。
 


そんな事をぼんやり考えていると、手にしていた機械がピピっと鳴った。



『レントゲン室にお入りください』と表示されている。



それくらい口で言えばいいのに、と毎回思う。