打ち上げ花火とミルクティ

診察室を出た恵斗はため息を一つついた。


いつもの事だった。


辛くはない。


でも、少し空しい。



普通の人が普通に出来る事が、恵斗には出来ない。



厳密に言うと、出来るのだがしてはいけない。



もしかしたら、普通に出来る事ではないのかもしれないと考える事もあった。



恵斗のように何かを犠牲にしなければ出来ないのかもしれない。



しかし、恵斗にとっての犠牲は、とんでもなく大きなものだった。


「終わったのかい?」



さきほどの老婦人が、まだ待合室のソファに座っていた。



「あぁ、いえこれからいろんな検査です。おばあさんは?帰らないんですか?」



この老婦人は、明らかに恵斗よりも早くにここに来ていた。



それなのにまだここにいるのはおかしい。



老人というのは、病院が好きなのだろうか。



「検査か。大変だね。あたしはあんたを待ってたんだよ」



婦人はニッコリと微笑む。



何故かそれが悲しそうに見える。



「どうしてですか?」


「きっと、もう二度と会えないだろうと思ってね。最期の挨拶だよ。あんたは、なんだかとても悲しそうに見える。だから、励ましの言葉でもかけようかと思ってね」


「最期だなんて・・・」


「自分の死期くらいわかる。もう未練はないさ。人に迷惑をかけるまえに死にたい。どうやらそれがかないそうで良かった」



婦人は終始笑顔だった。