璃梨の家では、家に帰ってすぐに黙って二階の自室に上がる事を禁止されている。



濃い茶色の木枠にすりガラスがはめ込まれたリビングの扉をそっと開けた。



「ただいま」



璃梨はもう一度、今度はそこにいるはずの母親に聞こえるくらいの声でそう言った。



カウンター式のシステムキッチンから小花柄のエプロンを付けた母親が顔を出した。



今日はどこかへ出かけていたのか、セミロングの髪をフワリと巻いていた。



若づくり。



璃梨はそう思っているが、周りの人たちは、璃梨の母親が本当に若いと思っている。




「璃梨ちゃん、お帰り。今日は塾のテストの返却日だったわよね?見せて」




母親は、璃梨に向かって手のひらを差し向けた。




念入りにネイルアートが施してある。




一体誰に見せるつもりなのだ。



璃梨は黙ってカバンの中からプリントを五枚取り出し、母親が突き出している手のひらにそっと乗せた。



数学百点、現代文九十五点、化学九十八点、英語百点、歴史九十九点。



誰がどう見ても、かなりの高得点だった。



しかし、母親は受け取った答案用紙を見ながら首を傾げて唸った。



その仕草にすら、美を意識しているようだ。