春なり、丘は子供を連れた親子連れでなかなか騒がしくなった。


そんな中を、一人、目的の場所へとスタスタ歩く。




「さくら…」




満開に咲き誇った桜の木を見上げ、今はもういない彼女の名を呟く。








あの日………


さくらが消えていなくなり、腕から彼女の温もりも消えてなくなった。



「……なんでっ、俺なんかを…っ」



暫く泣き続けていた俺に、ネロという死神は言った。




「さくら…っていうのはお前があいつに付けたのか?」


「……」

それには答えられず、なんとか首だけをゆっくり縦に振る。



「そうか…。あいつ…優しすぎるせいでさ、今まで一度も魂を回収できたことないんだ」






その彼によると、


さくらは、担当となった相手の周りを、いつも甲斐甲斐しく面倒見ていたそうだ。

…だが、それは決してその人間には気付いてもらえない。
それでも、さくらは担当を任されるたびに続けていたらしい。


「あいつも馬鹿だよな、気付いてもらえない相手に、しかもどうせ死んでいくようなやつ相手にさ…」


そう悪態をついていた彼だったが、顔は優しかった。




そして、結局そんな風に繰り返していたさくらは、誰の死を見届けることもできず、見習いのままだったらしい。




「さくらって、春に咲く、あの花の名前だろ?……あの馬鹿がつくほど優しいあいつにピッタリの名前だと思うよ」



桜って優しい色してるだろ?



そう言い残して、死神の彼は姿を消していった。


きっと、もう俺と会ってくれることはないだろうと、思う。