「わかってるよ…」


ネロにそう返事をしながらも、心のどこかでこの仕事に抗いたかった。




本当はいやなの。

人の死を見届けることが。


皆が皆、幸せな最期とは限らない。

むしろ、理不尽な死だったり、意に沿わない死のことの方が多い。




そんな人たちを見ていると、思わず助けたくなってしまうのだ。


死という運命から回避させてあげたくなってしまう。


でも、それは死神である私たちが決してやってはいけないこと。


だから私は、その度に逃げ出してしまう。




仲間が、私の代わりに魂を回収してくれるのを遠くから眺めるだけ。





「ほんとに、わかってるんだか…」



私の気持ちを見透かしてるのか、してないのか、わからないがネロは続ける。




「俺たちは、死神だ。人間の死を見届けることが仕事だ。神は神でも、俺たちは何も生み出せない。奪う側の者だ。忘れんなよ」



そう言って、ネロは私の頭に片手でチョップを食らわす。



「いたっ」


叩かれた箇所を両手で押さえながら、ネロをキッと見つめる。



「おっ、それそれ!いつものその睨みつけてくる顔!」


ニッと不敵な笑みを浮かべ、しっかりやれよ。と私に一言いった後、去って行った。



去って行く後ろ姿を眺めながら、ネロの漆黒のサラサラの髪が、あの彼と重なって見えた。