慌てて口を押さえたが…今やるべきは、そんなことじゃなかった。



逃げるべきであって、他のことをしている余裕なんて、なかった。


気がついた時には、目の前に麗が立っている。


涙を流しながら、口元には笑みを浮かべる麗が。


麗の手は、まっすぐにこちらに伸ばされる。


躊躇いなど、感じさせない。


首にかかる、麗の生きているとは到底思えない、冷たい手。


ゴキン



手加減されたのか。


首の骨が折れただけで、千切れるほどの損傷を、首は受けなかった。


けれど、悲鳴を上げる暇などないほど呆気なく…意識は暗い地獄に落ちた。


痛みさえ、感じる暇はないほどに呆気なく。

私は…初めて死を経験した。