「『ぅひひひひ…十秒数える。逃げてね?すぐに捕まったら、面白く、ないでしょ?』」



少女はひとしきり笑う。


莎々蘭の瞳からは、これから起きることを想像してか、大粒の涙が零れている。


「莎々蘭…莎々蘭…」


あちこちに包帯の巻かれた細い腕は、莎々蘭の目を隠すように、目の前にある。


「取り敢えず、逃げんぞ」


明星が、恐怖に震える麗の手を掴んでいる。


もう片方の手を、私に差し出してくる。


「『いーち…』」


もう、数え始めている。


急いで明星の手を握った。


私よりも大きな、明星の温かい手。


安心してか、涙が出てきた。


「大丈夫か?」


泣いている私に気付いてか、心配そうに声をかけてくる明星の言葉に、大丈夫。と返して、とにかく走る。

「『にぃーい』」

今聞こえている少女の声の聞こえない、見つからない場所に向かって。