「お、今日は寄り道しないで帰って来たな」




にっこり?

いや、違う
そんなにかわいらしいものじゃない


玄関を開けて一直線のリビングで

嬉しそうに、愉快そうに
怪しい笑みを浮かべる東野。




『か、帰りたくて帰ったわけじゃないです』


「じゃあ野宿でもシマスカ?」




思わず出た敬語をバカにするように
やっぱり、怪しく笑う。


...ああ、近くもないはずの距離で
表情を読み取れてしまう視力が憎い。




「上がんねーの?」




上がりたくなんかない


なんて言ったらどうせまた、
野宿だのなんだの言われるんだ。


...決してあたしだって、
いつもこんな怯えているわけじゃない。



原因はもちろん

今日の昼休みの

あの、東野の台詞。




"覚えとけよ?沙穂"