『じゃあ、バンド頑張ってな。』
それだけ言って、早坂は本当にさらっと帰ってしまった。
その背中を見る澪の目は、これまでに見たことがない程切なさで溢れていた。
そして、
『樹季くんごめん、先に帰ってて。』
俺の返事を聞く前に、澪はそう言い残して早坂の背中を追って行った。
「マジかよ…」
ひとり取り残されたフロアに俺の声が響く。
俺もその背中を追いかけて、澪が早坂に追い付く前にその手を握れたら。
ギュっと掴まえて、こっちを振り向かせることができたなら。
頭ではそう思うのに、どうしても脚が動かない。
2人を間近で見て、澪の想いを感じてしまった。
早坂を想う気持ちの大きさを。
『え、何その負のオーラ。』
立ち尽くす俺の後ろから溜め息混じりの悟の声が聞こえた。
「負けた。」
思ってたよりも弱々しく出た声は、ついさっきまでステージで歌っていた自分のものとは思えない程情けなかった。



