「少し話したいことがあるんだ。今、時間あるかな?」
『………。』
澪は視線をお弁当に向けて、迷ったように微かに首をかしげる。
『…可愛いー。うっ…。』
小声でそう呟いた悟に肘鉄をお見舞いして、俺はできるだけ優しく声をかける。
「ごめん、お昼だよね。今じゃなくても、放課後でも良いんだ。どうかな?」
『…放課後なら、大丈夫です。』
初めて聞いた澪の声は、小さくてもハッキリとした澄んだ声だった。
もしかしたらコーラスもいけるかもな…と思いながら、なんとか放課後にもう1度中庭で会う約束を取り付けた。
『やべー可愛い。』
遠ざかる澪の背中を見ながら、悟が今度は大声で言う。
『確かに可愛いなー。』
『お前、手出すなよ!』
ギャーギャーと騒ぐメンバーを見ながら、果たして澪はこの中に入れるだろうか…と心配になる。
そう思ったとき、俺は既に澪をサポートではなくメンバーとして迎え入れたいと思っていることに気付いた。
『でもさー、入ってくれるんかな?可愛いけど俺打ち解ける自信ねぇわ。』
NO人見知りの能天気な誠太も、さっきの澪を見て自信を失くしているらしかった。
『でも良い子そうじゃん?悟の話聞いてただけじゃどんな子が来るのかと思ったけど。』
「だけど、確かに人を信用してないような目だったよな。」
同じくNO人見知りの樹季はあまり気にしていないようだ。
だけど確かに澪の目は、自分のことを知られたくない、教えたくない、そんな風に人を拒んでいるようだった。
『なんでだろうな。』
「さぁな。」
樹季の疑問に俺が答えることはできない。
俺たちはまだ、澪のことを何も知らなかった。



