「俺は灯里を待つ。」
ただ縋っているだけなのかもしれない。
俺が覚えている限り、手放さない限り、灯里は俺の彼女だ。
忘れたく、ないんだ。
「澪のことはお前に頼むよ。」
『えらそーに。つまらないルール作ったのお前だろ。』
つまらないルール。
“メンバー内恋愛禁止”
もしかして俺は、何か自分を止めてくれる物が欲しかっただけなのか。
本気で澪を好きだと思ったとしても、それは偽りなんだと、どこかで止めてくれる何かが。
「あれは…」
『取り消さなくて良いぞ。』
「え?でも…」
『澪のことは好きだけど、付き合ったりする気は今はない。
やっぱ俺バンドが1番だし、付き合ったところで両立できねぇと思うから。それじゃ澪も幸せになれないだろ。
それにお前もそういう意味で作ったルールなんじゃねぇの。』
真面目に話す樹季の顔を見て、ますます自分が恥ずかしくなる。
澪の幸せなんて、全然考えてなかった。
“灯里の代わり”としか見てなかった。
「やっぱ俺最低だわ。」
樹季は今度は何も言わなかったけれど、その沈黙が俺にはありがたかった。
「明日メンバーにも謝るわ。私情をライブに持ち込むなんてリーダー失格だもんな。」
『誠太はいつも彼女のために!とか言って私情持ち込みまくりだけどな。』
「それもそうか。」
この日初めて、柔らかい空気が流れた気がした。
やっぱりこいつは良い奴だ。



