何度でも、伝える愛の言葉。


『樹季、手ぇ出すなよ。』

『出さねーよ。』


悟がからかうように言うと、樹季も軽く答える。

澪は困ったように俯いて、隅に置いてある椅子に座った。



『ゆーうとー?早く合わせようぜ。』

「あっ、悪い。」


澪と出会ってから流れている時間は皆同じはずなのに、澪と樹季の間にはもっと長い時間があるような気がした。

そんなことを考えている間にメンバーはすっかりスタンバイをしていて、樹季の声に慌ててベースを担ぐ。



『ちゃんと聴いとけよ。』


樹季の声を合図に誠太がカウントをとる。

スタジオに、いつもの音楽が鳴り響く。

樹季の歌声と力強い演奏は、俺らの武器だと自信を持って言える。


主に俺と樹季が書く歌詞と、悟が作る曲。

そこに俺らの“今”を詰め込んで、全力で歌い、鳴らす。


本気でデビューしたいと思っている。

そして、できると思っている。

だから俺らは全員進学せずに、いつでもデビューできるようにバイトしながらバンド活動をしていこうと決めている。


本気でデビューを目指していることを、周りは笑う。

親も先生も心配している。

だけど俺は、自分たちの歌を日本中に響かせたいと本気で思う。

そう信じているから、きっとこのとき澪に伝わったんだと思う。


澪はその日、正式に俺たちのメンバーになった。

そして俺は“バンド内恋愛禁止”というルールを作り、メンバーに伝えた。


なぜこんなルールを作ったのだろう。

自分でもよく分からなかったけれど、この瞬間、澪は同じ夢を追う仲間になった。