『それで良いんだ。俺のことなんか最低な奴だって忘れてくれれば、それで。』
「そんな…。」
『俺にはもう、そうやって澪を守ることしかできないから。』
澪を、守る。
スクールを辞めたことも、ピアノを辞めようとしていたことも、全部早坂さんのせいであって自分は悪くない。
果たして澪はそう思うだろうか。
本当に早坂さんが望む通り、早坂さんを忘れるだろうか。
「スクール辞めたんなら、付き合ってたって問題ないじゃないっすか。」
『俺のせいで辞めたんだ。
澪にとってピアノは癒しだった。それを俺が奪った。』
こんなにも苦しむのなら、いっそもっと最低な奴であってほしかった。
早坂さんの気持ちを思うと胸が張り裂けそうに痛む。
こんなにも優しい早坂さんのことを、澪は一生酷い奴だと思い続けるだろう。
あるいは覚えているのも嫌になって、忘れてしまうかもしれない。
俺だったら、耐えられない。
「悟に澪を勧めたのは罪滅ぼしですか?」
『…そうだね。』
スクールを辞めた澪に、ピアノを弾ける居場所を。
ピアノを辞めようとしていた澪に、ピアノを弾き続ける理由を。
早坂さんはその2つを同時に澪に与えた。
決して奪ってなどいない。
そしてそのお陰で、俺は澪に出会った。



