「たっ、たまに寄り道しようか?」
しまった……噛んだ。
普通の人にとっては
ごくごく普通の一言だけど
僕にとっては
冷や汗タラタラの一言。
シュミレーションを頑張りすぎて、無意識に職場でブツブツとひとり練習し
周りの人に不気味がられてしまった。
そんな僕とは逆に
千尋ちゃんは「いいよ」と軽く返事をし、丸い目をして僕の顔を見上げる。
可愛い。
僕だけの彼女なら最高なんだけど。
「山岸さんに怒られるかな」
「たまにいいよ。LINE入れとく」
「おっ、美味しそうな紅茶のお店を見つけたんだ」
また……噛んだ……悲しい。
「あ、知ってる。郵便局の近くのお店だよね。一度行きたかったんだ」
僕の緊張を1ミリも感じず
彼女はお店に向かって軽やかに歩き出す。
妊婦とは思えないように身が軽い。
『ふたりを困らせたかったの。妊娠なんてウソだよーん』
って言っても不思議じゃない動き。
でも妊娠は事実。
彼女のお腹には
間違いなく新しい生命が宿ってる
僕か……山岸さんの子が宿ってる。
宿るって言葉
自分には一生縁がない言葉だと思ってた。
人生
何があるかわからないって
しみじみ感じる。



