あれ、あれ!と指を指して連呼する瑞樹につられその方へ目を向けてみる。

 そこには…

「あ…あった。」

 大きな門があったものの、そこが噂の古い家屋であることは容易に理解できた。

 幽霊のくせにこんな立派な家に住んでんのか。

 まったく、図々しいやつだね。

「か、帰ろうっ!もう、充分。早く!」

 ガタガタと震えて、力ずくで腕を引っ張る瑞樹。

 やっぱり面白いなぁ、と思ってわざと抵抗してみせる。

「えー、せっかくここまで来たんだから中入ってみようよ!」

「だっ、ダメダメ!黄泉の国に連れて行かれるんでしょ!?そんなの、ヤダ!」

 …瑞樹、石崎の事、思いっきり馬鹿にしてたくせに。

 依然として、桜はヒラヒラと舞っていた。月でもあれば夜桜は綺麗だろうな。

 今、季節じゃないけど。しかも、それが幽霊の仕業なら、綺麗もへったくれもないけど。

 …ところで、この桜はどこから来てるんだろう。

 元をたどれば、幽霊出現…とか?

 面白さ半分で、辺りを見渡していた時…

『…智子。』

 瑞樹じゃない、知らない声が響いた。そして、それに同調する如く、風が吹き荒ぶ。桜が乱狂に舞う。

 気づけば私は桜にのみこまれるよう、辺り一帯が花に埋め尽くされていた。

 だ、だれ?…ううん。何でか分からないけど、この声をどこかで聞いたような。…ひどく、懐かしいような。

 私は、家屋の門がある方へ一歩踏み出した。

 桜の花の向こう側、誰かが立っていた。

 その人は、とても哀しい顔をしていた。…どうして、そう見えたのかは、やはり分からない。


 霜月の晦日、冬の季節。

 私は季節外れの桜を見た。


 今宵は新月。



 貴方は誰ですか…?