やさしい手のひら・中編【完結】

看護師さんが検温に来て、

「おはよう。今日はいい天気よ」

何も答えない私に必ず声を掛けてくれていた

「福田さんの彼氏ってBlacksのボーカルなんですってね。すごいわね。さっき帰って行ったけど仕事かな?」

私は窓を見ながら看護師さんの話を聞いていた

でもそんなことを言われても理解もできない、考えることもできない

動けて、自分でトイレにだって行ける。でも感情がないため笑うこと、泣くこと、怒ること、自分を表現することができないでいた

「またあとからご飯持ってくるわね」

そう言って看護師さんは出て行った

健太が別れを決めてしまったことも私には理解ができないでいた

ガラッ

私は音に反応して、ドアの方を首だけ動かし見てみた

「おはよ」

凌だった

「初めてドアの音に気付いたんじゃね?」

嬉しそうに凌が話す

「一歩一歩ゆっくりでいい。亜美のペースで回復すればいんだからな」

そう言ってパイプ椅子に座った

「川崎さん帰ったんだ?」

凌が私を見た

「ついしゃべり掛けちゃうよな」

笑いながら鞄から雑誌を出して読み始めようとした

「俺が亜美の傍にいるからな」

それだけ言い、あとはしゃべらず雑誌を見ていた