やさしい手のひら・中編【完結】

「はい、そこ座ってね」

私は先生の目をずっと見ていた

「率直に言うわね。あなた妊娠しているわ。今回の熱は風邪もあるけど、こうやって熱を出す人もいるのよ」

やっぱり妊娠しているんだ…私のお腹の中に健太との赤ちゃんがいる。無意識のうちに私はお腹に手を当てていた

私は先生がカルテに書く字を黙って見ていた

「まだ結婚はしてないわよね。今、誰かと来ているの?」

「あ、彼氏が待ってます」

「彼がお父さんかな?彼呼ぼうかしら?」

健太には知られたくない

「私から言うので呼ばないで下さい」

「わかったわ。でもね、あなた一人の赤ちゃんじゃないのよ。ちゃんと二人で話し合ってね。あなたのお腹には命が宿っているんだから」

私のお腹には大好きな人の赤ちゃんがいる

どうしたらいいのかわからなかった。ただ今は健太に言えない。そう思った

「明日、産婦人科に行って詳しい検査をして下さいね」

「はい、ありがとうございました」

私はお辞儀をして診察室から出た

ドアを閉めてから私はその場から動けないでいた

冷静になって考え、今現実だということを思い知らされる。健太に赤ちゃんがいることを伝えたら、私も赤ちゃんも捨てられるの?妊娠した女は面倒?世間に知られたら健太の仕事がなくなる?

いろんなことが頭をよぎる

捨てられたくない、別れたくない、嫌だ。嫌だ

「亜美終わったの?」

ハッと意識を戻した

健太が私を迎えに来ていた

「あ、うん」

私と手を繋ぎ会計まで歩いていた

「どうだった?」

「風邪だって」

「風邪でよかったな。出て来るのが遅いから変な病気だったらとか考えてたよ」

「ひどーい」

「なんともなくてよかった」

健太は安心したのかニコニコしていた

この笑顔を失いたくない