そんなことを考えながら私はトイレに閉じこもっていた

でも優香も待っているし、携帯に電話してもこの音なので聞こえないだろうし

私は勇気を出し、トイレから出た

誰とも目が合わないようにこっそりとトイレから出た

明るい所から暗い所に来たため、目が慣れなくて顔を上げ私は優香の所に向おうとした時、

今すれ違った人は・・・

えっ・・・健太?

私はゆっくり後ろを見ると向こうも振り向きこっちを見ていた

「・・・亜美」

聞いてしまった。愛しい声で私を呼ぶ声。ずっと聞きたかった声。でも私はまた前を向き、聞こえなかった振りをして歩きだした

「待てよ」

私のそばに来て、私の手首を掴んだ

私は目を合わせることなくずっと下を向いたまま

「離して・・・」

本当は嬉しいくせに、本当は顔を見たいくせに・・・

でも見るのが怖かったんだ。凌がいるのにまた健太を思ってしまうことが・・・

「なんで逃げるんだよ」

「お願い離して」

振り払っても健太の力は強く、私の力ではどうにもならなかった

「会いたかった」

そう言われた瞬間、私の涙は目から溢れ出してしまった

絶対泣いちゃいけないのに、我慢していた分たくさんの涙が零れていた

「俺は夢を見てんのか?」

夢なんかじゃない。私の目の前にはあの日別れた以来会っていなかった健太がいる。私の名前を呼んでくれた健太がここにいる

「亜美、遅い・・あっ」

優香が私を迎えに来てくれた

私はどうしたらいいのか目で助けを求め、優香の方を見た

「亜美の友達?」

「は、はい」

「ちょっと亜美借りるわ」

「あっ、はい」

優香はきっとびっくりしている。今人気のBlacksの健太が目の前にいて、しかも私の手首を掴んだまま私は泣いている

「ちょっと来て」

私は無理やり健太に引っ張られ、VIP席なのか、みんながいる所から離れた所に連れて来られた。向こうより音が静かだった

私はまだ健太の顔を見れないでいた