「そのまま持ってたら服が濡れるでしょ?」
私は傘を畳み始めた。
「服が濡れるってその前に手が濡れるじゃん。ほら…」
私の手を見て呆れ顔で言う。
手を開くとすでにびしょ濡れだ…。
「………もう濡れたからいーの!」
そう言って壱春の傘も取り上げ、畳んだ。
そんな私の様子を見ながら微笑むと、黙って2本の傘を持ってくれた。
右手に傘を持って私の前を歩く壱春。
どんどん先を歩く壱春を早足で追いかけ、空いている左腕にぎゅっとしがみついた。
今まで自分からそんなことをしたことはなかった。
だからきっとこの行動に驚いたはず。
でも壱春は何も言わず嬉しそうに微笑んでいた。
流してしまいそうな小さな出来事。
そんな些細なことに幸せを感じていた。

