Dear HERO[実話]


樹に足りないところなんて何一つない。

それどころか、自分にはもったいない。
そう思えるほどの人だ。


そんな人が自分のことをこれほどまでに思ってくれていた。

想いを知らなかったにしても、樹を傷付けた痛みは私じゃわかるはずもない。


その人の痛みはその人にしかわからないのだから。





「わかった…。そいつとがんばれよ。まだ…諦めるなよ」



それでも最後まで想ってくれる樹の言葉に、私はただただ頷くことしかできなかった。


何度感謝しても足りない。

何度謝っても罪は消えない。



それから数ヵ月後、私は自分のアドレスが変更になったことを伝えるため樹にメールを送った。

しかし…


【送信できませんでした。
 宛先を確認してください】


そのメールが樹に届くことはなかった。

樹のアドレスは私より先に変更されていた。


勝手ながらも寂しいと感じてしまう…。

そして二度と、樹と会うことも話すこともなくなった。


最後の樹の言葉が頭を駆け巡り、胸に響く。



「まだ諦めるなよ」




うん…まだ……


……まだ諦めないよ。