Dear HERO[実話]




「…意地張ってた。意地張っているって言ったんだ。本当は好きな人なんかいない」



…意地張ってた…?

……本当は…いない…?




「別れた後も凛のことがずっと気になってた…」



「………」



何も言えなかった。




「凛がその男とうまくいってると思ってたから我慢してた…」



戸惑いを隠せずうつむく私の腕を樹は突然引き寄せた。

そして…


………!?


口と口が触れ合う感触。


…キス……された…。



一瞬の出来事。

驚きのあまり声が出せずにいると、樹は真剣な眼差しで見つめた。



「ヨリ戻せないかな…」




もう私の目を逸らそうとはしない。

強く見つめられる眼差しに、そのまま吸い込まれそうだった。



……でもダメ…

…ダメだよ。



胸が痛むのを感じながら樹の真剣な目を逸らした。





「ごめん…。その人のこと…まだ好きなの…」



私の言葉に樹はゆっくりと腕から手を離した。

離れていく手から樹の胸の痛みが伝わってくる。


…二度も傷付けてしまった。