Toi et Moi

 耳が急に熱くなったのを感じながら、私は主任の顔を見る。主任は自分で目録を隠して、私を書庫の片付けに行かせ、桂君に目録を持ってくるように言ったんだ。
「いつから、気付いていたんですか」
 力の入らない声で聞くと、
「前から何となく。でも確信を持てたのは最近よ。神谷さん、そわそわそわそわしているんだもの」
 と主任は言う。そして、
「ほら」
 ぽんと腕を押してくれた。

 絶対に傷つけないよう丁寧に包んで箱に収めた貴重文書を乗せて、車は図書館へ戻っている。バックミラーには大きめの資料を積んだ大学史料館のトラックが映る。
「今日は詩織さんとの仕事が多いなあ」
 なんてのんきに言っていた桂君は、助手席で気持ちよさそうに眠っていた。一緒にいられる時間を壊したくなかった、だから主任、まだ告白はしていません。
 でも桂君を好きな気持ちに嘘はないから、やっぱり手紙を書こうと思う。言葉が出ないから、それを文字に託して。自分の気持ちを素直に書いて、桂君が何を思うかは解らないけれど、手紙で伝えたいと思う。手紙の返事が来たら、どんな内容でも、ずっとずっと大切にしたい。思いが伝わった証を、何十年も何百年も大切に。

 信号が赤になる。私は桂君を起こさないように、そっとブレーキを踏んだ。