Toi et Moi

「桐君は、おうち遠いの」
 チーフが桐に聞く。桐はまたあくびをしながら首を横に振った。
「ここから歩いて五分くらい」
「じゃあ、影月君とそんなに変わらないんだ」
「変わらないって言うか」
 桐の言葉に、何故か俺の心臓が反応する。
「一緒に住んでるから」
 チーフが一瞬固まった。桐は相変わらず眠たそうな顔だ。
「え、同棲ってことなの、影月君」
 目だけで俺に聞く。
「ルームシェアです」
 俺ははっきりと言ったが、
「そうそう、影月にはもう決めた相手がいるんで」
 とか桐がふざけたことを吐かす。
「いい加減にしろよ、桐」
「顔赤いし」
「怒ってるからだろ」


 何て言い合っていたら、チーフと別れる交差点に着いてしまった。
「あ、」
 俺は持たされっぱなしだったクラッチバッグを桐に返す。
「先に帰ってろよ、俺は駅までチーフを送っていくからさ」
「あら優しい」
「何か変なこと考えてるんじゃないか」
 二人とも、悪のりが上手い。俺はため息混じりにつぶやく。
「何もしないし」
「あ、そっか。影月は女の人には興味な」
「影月君、目が怖い」
 チーフに笑われる。腹が収まらないので、桐を小突いた。

「おーい」
 暗がりの向こう、俺達が歩いて来た方から誰かが現れる。呼びかけて、こっちに手を振るあの姿は。
「変出者」
 ぼそっと桐が言う。
「違うだろ、あれは」
 店長だ。