「いらっしゃいま」
 俺は入って来た客の顔を見て、声のトーンを下げる。
「何しに来たんだよ」
「そんな仏頂面するなよバイト君」
 と桐は笑いながら、カフェオレ、と注文する。左手に抱えているのはバラバラの資料。イートイン決定。
「三百二十円です」
「影月のツケで」
「できるか」
「冗談冗談」
 六百八十円の釣りとレシートを桐に渡し、プレートにソーサーとスプーンを乗せる。注文を聞いていた八意チーフが、そこにカフェオレを置いた。
「ごゆっくり」
 荷物を置いて戻ってきた桐に、俺はプレートを渡す。
「お前が言うと、皮肉にしか聞こえない」
 また桐は笑って、テーブル席に向かう。四人掛けを一人で使う気だ。レポートなら帰って勝手にやれ。

「お友達なの、よく店に来るよね」
 レジは暇になり、チーフに耳打ちされる。
「大学の友達、になるんですかね。学部学科もサークルも違うのに」
「影月君が先に声掛けたんでしょう」
 チーフの口角がきゅっと上がった。
「あ、図星だ」
「俺は何とも」
 わかるのよ、と残してチーフはキッチンに入る。