拙い文章と文字に、我ながら思わず笑ってしまった。けれども家は静かだ。却って恥ずかしくなる。
 母や妻、子ども達は買物に出掛けている。車を出そうか、と言ったら、
「あなたが来てどうするの」
 と妻に言われ、
「お母さんの方が運転上手」
 と子ども達に言われてしまった(情けないが、これは事実だ)。
 父は自分の書斎にこもり、何やらやっている。こんな雨では、ぶらぶらと古本屋を巡るのも億劫らしい。カレンダーに目を遣ると、今日の日付の下には小さく「父の日」の文字。
 じゃあ、父の好きなカツオをごちそうしようか。僕はそう思い、冷蔵庫をざっと見た後、妻の携帯電話にメールを送る。
『晩ご飯に、父さんにカツオ料理を作ろうと思うから、生食用のカツオを二節、大根を上半分、買ってきて欲しい』 
 しばらくして、
『もう、かったよー』
 と、子どもが打ったのだろう、絵文字を交えての返信があった。僕の考えそうなことはお見通し、か。僕の口元が緩む。

 ああ、だから弟は、明日帰る、と昨夜電話してきたのか。
 時計を見ると、弟が駅に着く時間だった。彼を駅に迎えに行って欲しい、と妻にまたメール。直後に弟から、皆と合流したとの返信。

 外は止みそうにない雨。手には、本棚の奥から出てきた、僕が小二の時に書いた作文。これを父に見せようか、それとも帰ってくる弟に見せようか。
 父は書斎にいる。出掛けた家族は食卓に集う。

 きっと、楽しい夕食になりそうだ。