「神父さん、アイツが放火した!」
「はい?」
「私、見たの!燃える家を見てにやにやしてる男!隣のおばちゃんより早く居たの!」
「犯人を見た、ってことか?朱音ちゃん」
「アイツが殺したの!お母さんもお父さんも私のことも!」
そうだ、あの男。さっき擦れ違ったアイツだ!
よくも…っ!
さっきの男を追って私は走る。
…殺してやる。
「マズイ。朱音ちゃん、ダメだ!」
「今度は逃がしません」
どんどん速くなっていく気がする。
神父さんたちが追ってくるのが分かったけど、止まれない。
アイツがいけないんだ。私たちはなにもしていないのに、アイツが…。
「綺麗だったな、俺の炎」
見付けた!
掴み掛かろうとしたけど、触れない。
私は此処に居るのに!目の前にこの男が居るのに!
「なんでよ!なんで…!」
コイツだって分かってるのに、触れない…。
悔しい、悔しい、悔しい!
「ぅわ!」
殴りたくて、殺したくて、男の側で叫んでいるけど何も気付かない。
そうしたら、神父さんが男を路地裏に引き摺り込んだ。
男の背後から押さえ込んで、首元に鈍く光るのは大きなナイフ。
「…ひっ?!」
「…動いたら殺します。叫んでも殺します。喋っても、…殺します」
「神父さ、ん…?」
「カルセドニー、早いよ」
うっすら切れた首から血が滲んだ。
追い付いたユークさんが呆れてる。
なんだろう、この状況。
すごく憎んだのに、唖然としてしまって怒りを忘れてしまう。
「貴方が放火犯、ですね?」
「……っ」
男は答えない。
神父さんに脅されたから、答えられないんだと思うけど…。
