「それより。」



マンションに着き、早速食事の支度を始めたかのこに如月が言う。



「いつまで”如月さん”なわけ。」



キッチンの入り口にもたれ不満気な表情でぶつくさ呟く。


「兄貴だって如月だからな。知ってるだろうけど。」


…わかってる。そんなの。


「知ってるわよ。…慣れなくて言い辛いのよ…。」

というより恥ずかしいのだ。



「みんなが来るまでには慣れるよう努力するから…泰斗さん。」


多分顔が赤くなってる。
恥ずかしい!むず痒くなるくらい恥ずかしい‼︎



「さん、はいらねぇな。かのこ。」



近寄り顔を覗き込む意地悪な彼に、背を向ける。


「慣れるまで、待って。」
「待てない。」


顎に手が触れる。



グイッと強引に降り向かされる。


「言ってみろよ、今。」

「後で。」

「ベッドの中では素直に言う癖に。」

「‼︎」


…ホントもうSなんだから。


「言えよ。」



何度目かの言葉に従うしかないと悟る。




「泰斗、支度できないから後にして…」


そう言うと、料理に集中する。



真っ赤な自分を意識しないよう、ひたすら手元だけを見て。



嬉しそうに笑う如月は、邪魔をしないようソファに座る。



こんな未来がすぐ近くにある。



幸せな、未来。