甘い甘〜い時間を過ごすと、離れる時間が辛くなる。



かのこも今はそれを実感していた。




如月の腕の中でずっと過ごしていたい、とワガママを思う。


あれだけ嫌だの鬱陶しいだの言っていた自分がまさか、といった感じか。


初めての日に、とびきり素敵な告白をされた。



確かに。



確かに、自分だけじゃなかった如月の過去。
でも…愛のあるセックスをしたのは自分とだけ、と言ってくれた。


好きな女を抱いたのは初めてだ、とも。



嬉しかった。



素直に信じようと思った。



彼は自分に嘘をついたりしない。
それがわかっていたから、信じれた。



とても、幸せ。


あの日から、何度か抱かれた。


まだ慣れないけれど、温もりや優しさだけじゃない、激しさやキツい思いも知ることが出来た。



それを全部ひっくるめて愛情だと思っている。



「かのこ。」


社長室から大輔が手招きしている。


何だろ?



入力中のデータを一時保存して画面をスリープにする。



社長室に入るとニコニコした大輔が居るだけだ。


「何よ。」

「かのこ、泰斗と同棲したいか?」



…たまにこの兄貴は頭がおかしいんじゃないか、と思うことがある。



「それはダメだって知ってる。パパやママがダメだって言ってたのあたしも聞いてたし。」


パパ達は多分アメリカから帰ることはないだろう。


仲のいい夫婦だから、一生一緒だろうし。

「婚約者なんだから大丈夫だろ。」

「追い出したいの?」

何なのだ。少し前までダメだって言ってたくせに。



「泰斗から、かのこを離したくないって懇願されたよ。

親父に話をした。


来週一時帰国するよ、夫婦で。


それで、俺も美那を嫁さんにしたいって話すつもりなんだ。


泰斗も挨拶に来る。


お前はどうしたい?」


どうしたいって…



「まだ…正直まだ結婚とか考えられない。でも…如月さんと離れたくない。ずっと側にいたい。」



大輔が嬉しそうに笑う。



「かのこ、柔らかくなったなぁ。
泰斗のおかげか?いい傾向だ。美那と話をしてから、よく笑うようになったよな。」


…別に。


別に美那ちゃんのアドバイスがよかったなんて思ってない。


ないけど。



「大輔さ、如月さんのお兄さん知ってる?」

「なんだ、急に。知ってるよ、わりと可愛い感じの兄貴だったからさ。海里さんだよな?」


…そっか、【姉】の海里さんは知らないのか。


「うん、そう。今日はね、海里さんも一緒に食事するの。

大輔と美那ちゃんも来る?」


「お、いいのか?かのこの手料理?」


嬉しそうに笑う大輔を見て嬉しく思う。


この、一見すっとぼけたような兄がいてくれたおかげで、今の自分がある。


「じゃ、その話はまたその時ね。」


社長室を後にしてデスクに戻ると、パソコンの画面に付箋が貼り付けてある。



【ハンバーグ】



…大の大人がメモする内容じゃないと思う。


ふふっと笑みがこぼれた。