マンションに着き、エントランスでインターホンを鳴らす。


はい、も誰?も聞かれずいきなり自動ドアが開く。

いつもと同じだ。


エレベーターの前で待っていると、上から降りてきたエレベーターから、美人が降りてきた。


にこり、と微笑まれて条件反射で笑みを返す。

なんて綺麗な人。


すれ違いざまふわりと香る香水。



背が高くて綺麗。


羨ましく思いながらエレベーターに乗る。


12階に着き、フロアに降りて気付く。


この香り…さっきの人もこの階に用事だったのかな。




…と、そこまで考えて嫌な予感がした。



まさかね。



まさか…如月さんじゃないよね。




嫌な感情が渦巻くまま、玄関先のインターホンを押した。



ガチャリ、と鍵が開きドアが開く。




フワリ、と室内から香りが流れた。





ドクン。





不安の塊が押し寄せる。





この香水…。



「かのこ」


玄関先に現れた如月は満面の笑みだった。




だけど。




かのこは笑えなかった。




腕を引かれ、室内に入る。



うっすらだけど、やっぱり香水の香り…。



あの人がここに居た…証。



キッチンに買い物した荷物を運び、ふと流しに置いてあるカップに気付く。




淵には…口紅。




その瞬間、駆け出していた。




如月が呼んだ気もしたが、構わなかった。




嫌。



嫌。




彼が、あの人と。





嫌!




嫉妬の塊に押しつぶされそうだった。



無我夢中で走って、どこにいるのかもわからなくなった。


そんな人じゃないって信じてたのに…。




何度も携帯が鳴る。


着信。


メールも何件も届く。




頼む、電話にでてくれ。

何かあったのなら話してくれ。



何件も何件も。



もう、自分をコントロール出来なかった。



あたし、こんなに弱かったんだ。




どこをどう歩いたのか記憶はなかったが、気付けば自宅に帰ってきていた。