真正面に立つ如月が、思いもよらない言葉を発した。


「キスしたのか?」



…は?



真剣に言うから何かと思えば…。



「あの男とは何もなかったのか?」



…それって…。



「何かあったと考えてるのね。」


「ないのか?」


待ち伏せされていた。連れて行かれそうになった。…ただそれだけなのに、何があるって言うの。


「誰にでも尻尾振るわけじゃないわよ。
好きでもない男に連れて行かれそうになって、本気で焦ってたんだから!」



…悔しい。



何でそんな風に思われてしまったの。



苛立ちを隠せなかった。



如月に、そんな風に思われてしまったのが悔しかった。



「帰ります。」


左手の指輪が、冷たかった。



バッグを持ち、玄関まで小走りで行きパンプスを履こうと足を出した瞬間だった。




身体が後ろに引き倒される。




あ、と思った時には、如月の腕の中にいた。




「帰さない…帰すかよ。


他の男と一緒にいるの見て腹が立ったんだよ。

俺の女のはずなのに…」


キツく、強く、抱きしめられていた。



爽やかな香水の香り。



たまらなく、ドキドキするこの腕の中。



見上げると、薄茶色の瞳が揺れていた。



初めて見上げる…



不意に近づいた唇が、かのこのそれに触れた。